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【LIVE REPORT】HAZUKI 1ST ONEMAN NITE "NEO XANADU" -XANADU MEMBERS ONLY-

2022.04.02



3月30日、lynch.のヴォーカリストである葉月のソロ・プロジェクト、HAZUKIによる初のワンマン・ライヴが東京は渋谷のSpotify O-EASTにて実施され、大盛況のうちに終わった。本題に入る前に事実関係を整理しておくと、lynch.は昨年12月31日に行なわれた結成17周年記念ライヴをひとつの区切りとして、以降は「一時活動休止」という状態にある。また、葉月自身は2016年より『奏艶』と銘打ちながらクラシカルなアレンジによる個人名義でのライヴ活動をスタートさせているが、このHAZUKIというプロジェクトはその延長上にあるものではない。lynch.とも『奏艶』とも一線を画する新たな音楽的可能性追求の場として始動したものだ。



しかもHAZUKIは掟破りともいえる変則的な始まり方をしている。正式始動は2022年2月1日。同日付でオフィシャル・サイトが開設されると同時にWEB会員の募集、そしてそのメンバー限定という形でのワンマン・ライヴ実施が発表されているのだ。当然ながらその時点においてHAZUKIとしての楽曲は一切世に出ていない状態にある。つまり「曲を聴いて気に入り、ライヴを観たくなる」という自然の摂理のような流れではなく、「曲を知らずともそのスタートを確実に目撃したい」という人たちだけがこのファースト・ライヴに足を運ぶことになったのだ。しかしそれでも公演チケットは早々に完売。それはlynch.の動きが止まった状態にあるからこそのファンの飢餓感、葉月の新たな動きに対する期待感の強さの現れだといえるだろう。
さらに時系列で事実関係を追っていくと、このライヴにおけるサポート・メンバーの顔ぶれが発表されたのが3月17日、そして1stシングル「XANADU/HEROIN(E)」がリリースされたのが3月26日のことだった。つまり公演当日、会場を埋め尽くしていたファンは、その日に葉月が誰とともにステージに立つことになるのかを約2週間前に知らされたばかりで、同シングルに収録されている“XANADU”、“HEROIN(E)”、そしてCD限定収録の“眩暈”という計3曲しか知らないという状況にあった。いわば、ステージ上で何が起こるのかがまったく読めない状態。観客の側には過去に味わったことのない独特の感覚があったことだろう。ただ、実は演者の側にとっても同じことがいえるわけだが。




午後7時の開演定刻に場内は暗転。今なおマスク常時着用を求められ、声を発することが禁じられた状態にあるだけに、そこに歓声が沸くことはないが、大きな手拍子が自然発生する。それに導かれるようにPABLO(g:Pay money To my Pain他)、TSUYOSHI(g:Unveil Raze)、響(ds:摩天楼オペラ)、hico(key)、lynch.での盟友ある明徳(b)が赤い照明に染まったステージ上の配置に就く。全員が統一感のある黒い衣装に身を包んでいる。そしてオープニングSEのビートに響のドラムが同調すると、いよいよ首謀者たるHAZUKIが登場。人で埋まったフロアを見渡しながら満足げな表情を浮かべ、両腕を大きく広げてみせた彼の第一声は強烈な咆哮だった。それと同時にステージ背景にこのプロジェクトのシンボルマークが浮かび上がり、新たな楽園のテーマソングともいうべき“XANADU”が炸裂する。




その瞬間から約110分間の時間経過の中で、HAZUKIは1stシングルに収録の3曲、4月25日に発売される2ndシングルの収録曲をはじめとする現時点における持ち曲すべてを出し惜しみなく披露してみせた。また、ライヴ中盤にはHAZUKIとPABLO、hicoの3人のみで、『奏艶』でのレパートリーである“玉響の灯”、終盤にはlynch.の楽曲である“PHOENIX”も組み込まれ、アンコールの最後には、すでに演奏済みだった“XANADU”と“HEROIN(E)”が再度披露された。いわゆる未発表楽曲についてこの場で説明的に述べることにあまり意味があるとは思えないが、ひとつ言っておきたいのは、アンコール時に上記の2曲が演奏された際には、どちらもすでに聴き慣れた愛着深い曲のように感じられたことだ。それくらい楽曲として即効性が高いということだろう。また、どの楽曲についても感じられたのは、演奏者の違い、リズム・パターンやタイム感の違いによる新鮮さだった。




実際、HAZUKI自身は一聴で彼だとわかる歌声の持ち主であり、それがlynch.の音楽をlynch.たらしめてきたともいえる。それはとても価値のあることだが、逆に言えば、彼があの声で歌えばどんな曲でもlynch.のように聴こえることになるのではないかという危惧が筆者には少なからずあった。が、1曲目の“XANADU”が始まった途端にそれが単なる杞憂に過ぎなかったことを確信できた。単純にアレンジのあり方が違うというものあるが、やはりその場に起きるケミストリーの種類が異なっているのだ。




アンコールの1曲目に据えられた“LIGHT”を歌い終えた際、HAZUKIはその楽曲がこのプロジェクトのごく初期段階からあったものだったこと、自分では思うように形にできずにいた原案をPABLOに投げたところ、それが2日後には彼の思い描く通りのものに仕上がっていたという事実を明かした。そうしたエピソードが象徴するように、HAZUKI自身がこれまでlynch.という世界の中で具現化できずにいたものがこの場で次々と開花していくことになるのだろう。もちろんそれはPABLOとのコラボレーションに限ったことではなく、技巧派ギタリストとして知られるTSUYOSHIとの間にも色調の異なった化学反応が起きることになるはずで、その片鱗はこの夜にも感じられた。

そしてもうひとつ書き留めておきたいのは、激烈な楽曲、ややダークな色調の楽曲が演奏される場面においても、会場内の空気が明るくポジティヴなものだったということ。実のところそれはlynch.のライヴにも通ずるものであり、それこそが葉月のキャラクターを象徴するものでもあるわけだが、いつにもましてこの日のステージからは「ライヴができる喜び」が伝わってきたように思う。4月末には、2ndシングル「+ULTRA/AM I A L∅SER?」の発売を受けた形で全8公演の『TOUR’22“AM I A L∅SER?”』も幕を開けることになる。その頃にはHAZUKIとしての新たな楽曲も確実に増えているはずだし、この日に演奏された楽曲たちもそこでさらに進化を遂げていくことになるに違いない。



HAZUKI自身の言葉を借りるならば、HAZUKIにはまだ歴史がない代わりに、伸びしろしかない。この先、この場でどんなことが起きるのかを楽しみにしていたい。そして次の機会には、客席で声をあげられる状況が整っていることを願いたいものである。



Text by:増田勇一
Photo by:江隈 麗志(C-LOVe CREATORS)

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